小中学校における能動的な学習方法を取り入れた薬物乱用防止教室の実践例
<薬物乱用防止指導に関わる皆様へ>
薬剤師としての視点から、喫煙防止・薬物乱用防止教室の実践例をご紹介しますが、これは、全ての薬物乱用防止指導にあたる方々に理解し取組んでいただきたい内容です。
「子供のしつけは10歳まで」これは、懇意にさせて頂いていた臨済宗の僧侶の方が、昔から言われていることだと教えてくださった言葉です。学校薬剤師として、十数年前から小中学校での「喫煙防止教育」「薬物乱用防止教育」に関わってきましたが、講義形式で知識の伝達を図ることだけで、人の行動を大きく変えることができるのか少々疑問を感じていた頃に、この言葉に出会いました。
これは、「悪いことはやってはいけないんだよ」と教えて、それを素直に受け入れるのは10歳くらいまでだということを諭しているのだそうです。
法律や社会のルールは、もちろん守らなければいけません。未成年はタバコを吸ってはいけない(もちろん成人であっても喫煙は百害あって一利なしです)、違法な薬物の摂取、乱用してはいけないと指導しても、喫煙者、薬物乱用者の数がゼロになるわけではありませんが、より効果的な指導の方法がないものかと考えてあぐねていたところでした。
■6つの「危険行動」と3つの特徴
アメリカのCDC(疾病管理・予防センター)は、青少年の6つの「危険行動」(個人の健康や社会に対して危険度の高い行動)として、
1)故意または不慮の事故に関係する行動
2 )喫煙
3 )飲酒および薬物乱用
4 )望まない妊娠、HIV/AIDS を含む性感染症に関係する性行動
5 )不健康な食生活・食行動
6 )運動不足
を掲げて、これらを抑制することが現代社会の健康問題の解決のための現最優先課題だとしています。
そしてこの危険行動には3つの特徴があります。
第1:一旦始まってしまうと、そこからの脱却が極めて難しいこと
第2:相互に関連性が強く6つの危険行動はそれぞれが単独に起こるのではなく、
ほとんどのケースで重複して起こること
第3:6つの危険行動はいずれも小児期から青少年期にかけて始まり、成長するにつれて固定化し、
質的にも量的にも進行すること
つまり、これらの行動は、相互に関連性が強く10代に身に付き、一度習慣化すると戻すのが難しいということになります。「喫煙」「飲酒及び薬物乱用」は薬物問題そのものであり、6つの危険行動が相互に関連性が強いことを考えれば、青少年の喫煙・飲酒を含む薬物乱用を防止することは、健康教育の最も重要な課題であるということは明らかです。
■薬剤師の職務
一方で、大学薬学部の教育は、平成18年から4年制から6年制へと移行しました。これは、医療技術の高度化、医薬分業の進展などを背景に、医療人としての質の高い薬剤師養成が必要であり、そのための教育には6年間必要 であるという考え方に基づいています。
薬学部が医療人として高い臨床対応能力、倫理観、使命感を持った薬剤師養成に大きく舵をきったことになります。その教育の内容も、これまでの知識偏重教育ではなく、技能、態度もバランスよく教育することが重要であるという考えのもとでカリキュラムが作成されました。
臨床に関わる知識を身に付けると共に、人間理解のための幅広い教養、患者とのコミュ二ケーション能力、問題発見・解決型の能力、倫理観、医療事故や重大な副作用の発生を防ぐ危機管理能力等を育成することが目的です。臨床対応能力を養うために、病院・薬局における長期実務実習が導入され、病院・薬局で職務についている薬剤師も薬学生の指導に大きく関与することになりました。
そして、学校薬剤師の身分を規定する法律は、学校保健と学校安全の一層の充実を図るために平成20年に一部改正され、「学校保健法」から「学校保健安全法」に改称されました。
この中で学校薬剤師は、学校の環境衛生に関して検査に従事し、その維持及び改善に関し、必要な指導及び助言を行うという従来の職務を行うと共に、
児童生徒等の心身の健康に関し、健康相談、保健指導を行うものとされ、学校におけるくすり教育、 喫煙・飲酒防止教育・薬物乱用教育等に積極的に関わることが期待されています。
薬剤師の職務は、薬剤師法 第1条に「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」とされています。