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岐路に立つとき



 この度、(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター理事長の職務を始めるにあたり、ご挨拶がわりに長年に渡って思いを巡らせてきたことの一端を申し述べます。

 私は1980年に国連に採用され、ウィーンに赴任して国際麻薬統制委員会(INCB)事務局に勤務しました。初めに、麻薬見積もり制度、後に統計制度を担当したのでした。「麻薬に関する単一条約」に基づいて、合法的に造られた麻薬が非合法なルートへ横流しされるのを防ぐとともに、医療麻薬の国際的な需要と供給のバランスをとり、その適正使用を確保するための様々な活動に携わりました。
 後年「麻薬および向精神薬の不法取引に関する国際連合条約」が1988年に採択されるにあたり、前駆物質統制室(当時)初代室長として、INCB事務局次長を兼務しつつ、密造に使われる前駆・化学物質の国際規制を担当しました。
 さらに5年ばかりを、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)東アジア・太平洋地域センター代表としてバンコクへ赴任し、その間は麻薬問題に加え国際組織犯罪・国際テロ対策も管轄に入りました。
 今一度ウィーンに異動した後、国連を定年退官し、30年ぶりに日本へ居を移してからも、主に薬物対策に関わるいくつかの組織の役員を務めて今日に至ります。

 1980年代半ば、「ダメ。ゼッタイ。」運動が始まった頃、国連職員として私が初めて日本へ出張する機会がありました。これがきっかけのひとつとなり、国連支援募金が始まったと後に聞かされました。それから今日までの長い年月を様々な立場で麻薬・覚せい剤乱用防止センターに関与してきました。
 当センターの設立については、山本章著『どうする麻薬問題「奇跡の国」と言われているが・・・』(薬事日報社)がいきさつを端的に語って、我々に原点を思い起こさせます。

 一つ記憶しておかなければならないことがあります。かつて、薬物乱用防止の標語は、不幸にして薬物乱用を始めてしまった人たちへ向けてのものばかりでした。そこで、薬物に手を染めていない人々を対象にする標語が創られたのでした。それが、薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」だったのです。
 お母さんが子どもに、「ダメよ。そんなことをしては」と言い、子どもがそれに応えるといった愛情のこもった親子の会話のように、と創始者たちが考えた記録が残っています。
 様々な国で薬物治療施設や刑務所などを訪れました。薬物使用で収容されていたのは往々にして大半が若者でした。問いかけてみればどこの国でも、どの場所でも、同じ答えが返ってきました。「ドラッグがこんなに危険なものだとは知らなかった」そして「友達から誘われた」のだと。
 誤った知識の氾濫、合法化を許容する少数の国々の動き、そういった情報からくる誰でもやっているのだという思い込み、そのひとつひとつが若者たちを薬物乱用から救う妨げになっているのは周知のことでしょう。

 歴史をひもとけば、不正な供給が乱用を引き起こしてきた事例には事欠きません。逆もまた真でした。娯楽目的の薬物使用を許す環境が生まれれば、組織犯罪はそこにつけ込んできたのです。だから薬物乱用という需要を減らすことが不可欠で、それはひとりひとりが自分事として関心を持つことから始まるのでしょう。
世界のなかの日本です。世界で起こることは、日本でも起こり得ます。
 麻薬は規制されているから危ないのではない。危ないから規制されているのだ。合法化の議論が現れるたびに、私はそう言ってきました。私が常に話していたのは、こういうことでありました。
 泳ぐことが禁止されている湖がある(薬物乱用禁止)。そこで溺れている人を見つけたとする(乱用者がいた)。違法なことをしたとただ咎めたところで、全く意味はない。まずなにより先に、目の前の人の命を救わなければならないではないか。しかし、ほかの人間がその湖に入ろうとするとき、それは押しとどめなければならない、と。

 今、我々は岐路に立っています。
 我々は皆、同じ方向を向いて進んでいるのです。ひとつの組織だけで完結することではありません。異なった役割を担うそれぞれの組織がいわば有機的につながり合い、各自があたかもパズルの一片を埋めるようにして手を携えて進んで行かなければならないときです。

 本年6月に、私は一般社団法人「国際麻薬情報フォーラム」を設立しました。また近年、薬物問題に関連して活動を始めたいくつかの社団法人があります。そのうち「医薬品適正使用・乱用防止推進会議」(鈴木勉代表)、「日本薬物問題研究所」(西山孟夫代表)をはじめとし、その他関連する組織と語り合い、当センターを通して正確な情報を発信していきたいと考えています。日本からアジアへ、そして世界へと。

 当センター設立の原点を今一度思い起こし、また新たな時代に即した道を探り、国内外の諸機関と密接に連携して、先へ進みます。志ある皆様方のご支援・ご協力を切にお願いする次第です。

2020年8月