解説 現状と問題点について

皆さんこんにちは。麻薬・覚せい剤乱用防止センターで専務理事を務めております、松本です。2022年12月にセンターの方に参りました。どうぞよろしくお願い致します。それでは私から薬物に関する現状と問題点について話をしたいと思います。

薬物事犯検挙者数の推移
この表は、2014年から昨年2023年までの薬物事犯での検挙者数の推移を表しています。一番上の赤色の線が薬物事犯全体の検挙者数です。2014年には全体で13,437人が検挙され、昨年は13,815人ですからさほど変わりはありません。途中若干波打っていますが、ここ9年間は1万3千から1万4千の間で推移しています。その下の青色の線、これは覚醒剤の検挙者数を表しています。2014年には11,148人が検挙されていますが、その後は減少が続き昨年は6,073人とほぼ半分近くに減っています。 そして緑色の線が大麻の検挙者数を表していますが、2014年の検挙者数は1,813人でしたが、その後増加が続き、昨年は覚醒剤の検挙者を追い越し6,703人でした。薬物に関する統計を取って以来、大麻が覚醒剤を上回るのは初めてのことです。覚醒剤の検挙者を上回ったということもそうですが、緑色の線の流れを見て分かる通り、それだけ大麻乱用者が年々増えてきたということになります。一番下の黄色の線は麻薬・向精神薬の検挙者数です。流れはなだらかですが、それでも2014年当時の452人から昨年は倍以上の1,033人に増えています。 全体の流れを見て、大麻の検挙者数が2014年に比べて昨年の時点で約3.7倍増と急激に増加し、一方覚醒剤の検挙者数は、半分近くに減っていることが分かります。大麻が増える一方で、覚醒剤が減っている、これが 現状です。ただし、覚醒剤の押収量は、2014年が約570Kgであったのが、その後波はありますが、昨年は1.6トンと2014年に比べて3倍近く押収されています。覚醒剤は海外の犯罪組織等により密輸されています。日本国内で売れるからこそ密輸をするわけですから、この数値を見る限り、覚醒剤の検挙者数が減っているとはいえ、うかつには喜べないのも現状です。

大麻事犯の検挙人員 30歳未満の割合
次は増えている大麻について見ていきます。この表は大麻だけの検挙者数の推移を表しています。棒グラフは色分けされていますが、上の緑の部分が30歳以上の検挙者数、下側は30歳未満の検挙者数を表しています。黒色の線グラフは30歳未満の検挙者全体に占める割合です。大麻の検挙者数が年々増えていくと同時に30歳未満の検挙者数が増えているのが分かります。昨年は大麻で検挙された人が6,703人、そのうち30歳未満の人は4,887人で、その割合は72.9%にも達しています。

意識調査の結果(大麻及び覚醒剤に対する危険性の認識の比較)
一方で警察が行った意識調査の結果があります。これは昨年警察が大麻の単純所持で検挙した初犯者、1,060名を対象にした調査です。大麻及び覚醒剤に対する危険性の認識の比較ですが、大麻については危険との認識が全くないと答えている人が青色の34.6%、あまりないと答えているのが緑色の41.8%で、合わせて74.6%の人に危険との認識がなかったことが分かります。危険だ、大いに危険だと思っている人は、わずか14.3%の人だけです。ところが覚醒剤については、危険だと思っている人が31.3%、大いに危険と思っている人が41.9%と、合わせて73.2%の人が危険であるとの認識を持っております。 大麻については、認識が甘くなっているのが分かりますね。

意識調査の結果(危険性を軽視する情報源)
これは大麻の危険性を軽視する情報をどこから得たかを年代別に分けてあらわした表です。20歳未満では最も多いのが赤枠のインターネットです。インターネットにより軽視情報を得たのが40.4%、友人・知人からは30.9%です。20歳代では軽視情報をインターネットで得たと答えているのが、37.3%、友人・知人からが32.9%です。情報源の一つである友人・知人もおそらくは、インターネットで得た軽視情報を周りに拡散しているものと思われます。

インターネット上では・・・
さて、インターネット上にはどんな情報が載っているかといいますと、これは一例ですが、「大麻が合法化されている国がある。本当は、大麻は安全。」といった話や「大麻が医療に使われている。大麻は安全だし身体に悪影響を及ぼさない。依存性もない。」といった話、さらには、国連が大麻を厳しい規制がかかるモルヒネなどの医療用麻薬と同じように医師の指示のもとに医療用途に使えるようにしたことを曲解して、「国連は大麻の規制を緩めた、世界の流れは解禁に向かっている。今なお厳しく規制している日本は時代遅れ。」などといった話です。このような誤った情報をそのまま鵜呑みにしていることが、若い世代の大麻乱用増加に拍車をかけていることが多分に言えると思います。 意識調査自体は30歳未満の若い世代を対象にしたものではありませんが、着実に増え続けている若い世代の検挙者についていえば、その多くが中学校や高校で大麻を含めて薬物の危険性について学んでいるはずです。しかし今や、こと大麻に関しては、インターネット上でそれを打ち消す情報が氾濫し、それを信じ込まされているといった印象を受けます。正しい情報をいかに意識の中に残るように伝えていくか、これが我々の課題であると考えております。
大麻が合法の国があるから、大麻は安全とありますが、確かに現時点ではカナダやウルグアイなどは嗜好用の大麻を合法化しています。アメリカにおいてもワシントンDCほか24の州で合法化されています。しかしどの合法化されている国においても、地域においても、大麻が安全だと宣言しているところは一つもありません。合法化している国、地域にはそれぞれに事情があります。例えばカナダは2018年に合法化されましたが、カナダ政府によれば、それまでのカナダでは、大麻の乱用が広がり、取り締まりが限界に達していることや、大麻の不正取引でマフィアが多額の収益を得ていること、未成年者であっても金さえ出せば容易に大麻を買えること等から、
・闇市場での密売やマフィアへの資金流入を防ぐため
・未成年者の大麻使用を防ぐため
・大麻の生産・販売等を政府主導で管理するため
・大麻に課税することで国の財源を強化するため
等の理由で合法化に踏み切りました。
合法化されていても、今なお未成年者に大麻を売ったりすれば最高で14年以下の重い罰則が科せられます。ですから合法化の国があると言っても、そこには事情があり合法化に踏み切っただけで、決して大麻が安全だと言っているわけではありません。また、嗜好目的の大麻を合法とすることは条約違反になります。当センターとしては今後の国際社会の動きを注視したいと思います。

センターでは、若い世代が誤った情報を鵜呑みにすることがないように、今後も啓発の仕方をさらに考えながら、正しい情報をしっかりと皆さんに伝え、薬物乱用の未然防止に努めて参りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願い致します。
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