岐阜薬科大学・兵庫教育大学名誉教授勝野眞吾はじめに国連薬物・犯罪事務所(
United Nations Office on
Drugs and Crime :
UNODC )は、世界各国から薬物に関する情報を集め、毎年
World Drug Report として公表しています。
World Drug Report には世界の薬物問題に関する信頼できる情報が示されています。前報1)に続き、今回は、
World Drug Report 2022 の
5 つの
Booklet 2)のうち
Booklet 2 の「世界における薬物の需要と供給の概要〝
Global Overview of
Drug Demand and Drug Supply 〟」から、(その
2 )として、Ⅲ薬物使用のもたらす健康被害、Ⅳ新型コロナウイルス感染症(
COVID-19 )パンデミックの薬物使用に与えた影響、を掲載します。Ⅲ薬物使用のもたらす健康被害1.薬物使用障害罹患率と薬物使用障害者数①薬物使用障害の全体的な罹患率には大きな変化はない。しかし、主に世界的な人口増加により、薬物使用障害を有する人々の数は増加している(図1):
15 ~
64 歳の世界人口全体としてみると、薬物使用障害は罹患率
0 ・
76 %に相当します。過去
1 年間に薬物を使用した世界全体の推定
2 億
8 、
4
0
0 万人に限ってみると、その約
13 ・
6 %が薬物使用障害に罹患していると推定されています。世界人口の年間割合として表される薬物使用障害の罹患率は、過去
15 年間にわたってほぼ一定でしたが、薬物使用障害に罹患していると推定される実数は、
2
0
1
0 年の約
2 、
7
0
0 万人から
2
0
2
0 年には約
3 、
8
6
0 万人に増加しました。これは世界総人口の増加によるものです。2.薬物使用による健康障害①世界におけるほとんどの薬物使用障害は大麻とあへん系麻薬に関連している(図2):入手可能なデータが得られた
68 カ国についてみると、それぞれの国内で最も多くの薬物使用障害を引き起こしていると特定された薬物グループは大麻タイプの薬物です。これにあへん系麻薬、主にヘロインが僅差で続きます。薬物使用障害のリスク(危険度)は、「被害の大きさ×それが起きる確率」で表されます。大麻は、その使用の及ぼす被害が、単独ではあへん系麻薬のヘロインや覚醒剤に比べて大きくなくても、使用者が多いために、起こる確率が高く、そのためにリスクが大きくなるのです。覚醒剤(
Amphetamine-type
Stimutants :ATS)、特にメタンフェタミン使用障害も、しばしば報告されています。薬物使用障害と薬物関連治療の受療は、大麻とあへん系麻薬が多く、それぞれ
30 -
40 %を占めます。薬物関連死は、あへん系麻薬によるものが
77 %を占めます。②薬物障害治療開始時の最も一般的な一次薬物に関しては、明確な地域差がある(図3):薬物障害治療開始時の最も一般的な一次薬物は、一部のアフリカ諸国では大麻が主要な薬物です。東ヨーロッパと南東ヨーロッパ、アジアでは、あへん系麻薬使用障害の治療が多くみられます。中南米およびカリブ海地域ではコカイン使用障害の治療を受けている者の割合が最も高くなっています。東アジアおよび東南アジア、オーストラリアおよびニュージーランドでは、覚醒剤・ATS、特にメタンフェタミンが主要薬物です。
図1
2
にみる世界の薬物問題の現状と課題(その2)