ウ)再乱用防止と社会復帰支援、麻薬中毒者制度
○これまで、政府においては、 「第五次薬物乱用防止五か年戦略」、 「再犯防止推進計画」 (平成29年12月15日閣議決定)に基づき、
薬物乱用は犯罪であるとともに薬物依存症という病気である場合があることを十分に認識し、関係省庁による連携の下、
社会復帰や治療のための環境整備など、社会資源を十分に活用した上での再乱用防止施策を推進している。
○一方、覚醒剤事犯における再犯者率は、依然高水準で推移しており、検挙人員の7割近くに至っているほか、保護観察が
付される事例が多くない、保護観察対象者であっても保健医療機関等による治療・支援を受けた者の割合は十分とはいえ
ない水準にとどまっている、保護観察期間終了後や満期釈放後の治療・支援の継続に対する動機付けが不十分となってい
る、民間支援団体を含めた関係機関の連携は必ずしも十分でない、といった課題も見られる。
○薬物依存症者に対する医療支援に関しては、大麻取締法においては規定がなく、麻向法に基づく麻薬中毒者制度の対象と
なっている。一方、薬物依存症者については、平成 11 (1999)年の法改正により、精神保健及び精神障害者福祉に関する法
律(昭和25年法律第123号)における精神障害者の定義の対象となることで、同法に基づく措置が可能となっており、実質
的に重複した制度の対象となっている。
○実態を見ると、平成 20 (2008)年以降、麻薬中毒者の措置入院は発生しておらず、麻薬中毒者の届出件数についても、平成
22 (2010)年以降、年間届出件数が一桁台で推移しており、制度として実務上機能していない状況になっている。
②見直しの考え方・方向性
ア)大麻使用への対応について
○大麻取締法の大麻の単純所持罪は、大麻の使用を禁止・規制するために規定されているにもかかわらず、大麻に使用罪が
存在しないことのみをもって大麻を使用してもよいというメッセージと受け止められかねない誤った認識を助長し、大麻
使用へのハードルを下げている状況がある。これを踏まえ、若年層を中心に大麻事犯が増加している状況の下、薬物の生
涯経験率が低い我が国の特徴を維持・改善していく上でも、大麻の使用禁止を法律上明確にする必要がある。
○また、大麻の乱用による短期的な有害作用、若年期からの乱用によって、より強い精神依存を形成するなど、精神・身体
依存形成を引き起こす危険性があることから、乱用防止に向けた効果的な施策が必要となる。大麻に依存を生じるリスク
があることも踏まえ、乱用を早期に止めさせるという観点からも、大麻使用に対するペナルティーを明確にする必要がある。
○そのため、他の薬物法規と同様に成分に着目した規制とし、大麻から製造された医薬品の施用を可能とするに当たり、不
正な薬物使用の取締りの観点から、他の薬物の取締法規では所持罪とともに使用罪が設けられていることを踏まえ、大麻
の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見いだしがたく、上記(1)に基づく医薬品の施用・受施用等を除き、大麻の使
用を禁止(いわゆる「使用罪」)するべきである。
○薬物を使用した者を刑罰により罰することは、薬物を使用した者が孤立を深め、社会復帰が困難となり、スティグマ(偏見)
を助長するおそれがあるとの意見もあるため、大麻について使用罪の対象とした場合でも、薬物乱用者に対する回復支援
の対応を推進し、後段に述べる薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである。
特に、薬物乱用や薬物依存の背景事情も考慮に入れ、国民への啓発や、薬物依存症からの回復や、社会復帰を目指す者を
地域共生社会の一員として社会全体で支えるなどスティグマ(偏見)も考慮に入れつつ、取組みを一層強化する必要がある。
○なお、薬物の所持・使用に刑事罰が設定されても、薬物の所持・使用事犯に対しては、諸般の事情が考慮され、検察官の
判断により起訴猶予となることや訴追されて有罪となったとしても司法の判断により全部執行猶予となることもあるとこ
ろ、平成 28 (2016)年6月より、刑の一部執行猶予制度が導入され、薬物使用者等の罪を犯した者に対し刑の一部について
一定期間執行を猶予するとともに、その猶予中保護観察に付すことが可能となり、地域社会への移行、社会復帰後の生活
の立て直しに際して、指導者・支援者等がより緊密に連携し、必要な介入を行えることとなっている。
イ)成分に着目した規制の導入について
○規制すべきは THC を始めとする有害な作用をもたらす成分であることから、従来の大麻草の部位による規制に代わり、成
分に着目した規制を導入し、これを規制体系の基本とする方向で検討を進めるべきである。
○その際、麻向法の枠組みを活用することを念頭に、他の麻薬成分と同様、医療上必要な医薬品としての規制を明確化する
とともに、麻薬として施用等を禁止する対象となる成分を法令上明確化していくべきである。
参考・麻向法の政令で麻薬として規定されている成分
Δ6a (7)-テトラヒドロカンナビノール(THC)
Δ6a (10a)-テトラヒドロカンナビノール(THC)
Δ7-テトラヒドロカンナビノール(THC)
Δ8-テトラヒドロカンナビノール(THC) (化学合成に限る。)
Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC) (化学合成に限る。)
Δ9 (11)-テトラヒドロカンナビノール(THC)
Δ10-テトラヒドロカンナビノール(THC)
※化学合成に限らず、大麻由来の物も対象として規定すべきである
○また、上記以外の成分であって、有害性が指摘されている成分(THCP、HHC等)についても、その科学的な知見の集積に
基づき、麻向法、医薬品医療機器等法の物質規制のプロセスで麻薬、指定薬物として指定し、規制していくべきである。
○THCは体内に摂取された後、代謝され、THC代謝物(THC-COOH-glu)として尿中に排泄されることが知られており、使
用の立証には、THC 代謝物を定量することを基本とすべきである。その際、スクリーニング法と GC/MS 等の一定の感度
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