(3)国際情勢
○麻薬単一条約による統制
1961年の麻薬に関する単一条約(麻薬単一条約)は、麻薬に関する普遍的に受け入れられる国際条約であって、麻薬の使用を
医療上及び学術上の目的に制限し、かつ、前記の目標に到達するための継続的な国際協力及び国際統制について規定するため
に締結された。条約の附表に掲げる薬物に対する統制を行うものであり、大麻、大麻樹脂は、他の麻薬と同様に、附表に掲載
され、麻薬単一条約の下で統制されている。国連麻薬委員会(CND)は、世界保健機関(WHO)の勧告に従い、附表を改正する
ことができることとされている。我が国もこの条約を批准し、麻薬、大麻等に関する上記国内法での取締りを行っている。
令和4 (2022)年7月現在、カナダ、ウルグアイ、アメリカの一部の州において、医療目的以外の目的での大麻の使用が合法化
されているが、国際麻薬統制委員会(INCB)は平成30 (2018)年の年次報告書
ⅱ
において、麻薬単一条約に違反すると懸念を表明
している。
○医薬品の現状(エピディオレックス)
大麻から製造された医薬品である難治性てんかん治療薬(商品名:エピディオレックス)について、諸外国で承認を受け、使
用が可能となっており、かつ国内でも治験が開始されている。当該医薬品は医療上のニーズが高いが、当該医薬品について医
薬品医療機器等法に基づく薬事承認がされても、我が国においては大麻取締法の規定により大麻から製造された医薬品の施用・
受施用を禁止しているため、当該医薬品についても施用・受施用ができず、現行制度では難治性てんかんの治療に係る医療上
のニーズに応えることが出来ない。
○麻薬単一条約 令和 2 (2020)年の附表改正
国際的には、令和 2 (2020)年12月に開催されたCNDの会合における麻薬単一条約についてのWHO勧告の可決により、麻薬
単一条約上の大麻、大麻樹脂に係る附表の分類について、大麻の医療上の有用性を認める分類変更がなされたところである。
(4)新たな市場の形成
○ CBD 製品の現状
大麻草に由来する成分は、THC に限らず、様々なカンナビノイドが存在することを紹介した。中でも CBD は、THC のよう
な中枢神経作用がないとされており、欧米を中心に、近年、 「エピディオレックス」のような医薬品はもとより、リラックス効果
などをうたう食品やサプリメントの領域で急速に市場が拡大している。世界的には今後 10 年で 7 〜 8 兆円の市場規模にまで成
長するとの経済的な観測もある。
○国内における CBD 製品の流通、回収事案
我が国にも、大麻取締法の禁止部位を原料に用いていないとされる CBD 製品が主として輸入され、サプリメント等として販
売されている実態が既に存在している。一方、CBD製品中から、微量ながらTHC が検出され、大麻取締法における禁止部位
が混入したおそれがあるものとして、令和4 (2022)年7月現在、市場からの回収に至った事例もこれまで15製品公表されている。
CBD を含有した製品に係る安全性の確保や健全な市場育成の推進、大麻由来医薬品の利用を可能とする仕組みの構築などが求
められている。
(5)栽培を巡る現状
○大麻栽培者数の推移、現状
大麻草は、我が国において神事や祭事、衣類の原料等に用いられ、ピーク時の昭和 29 (1954)年には、国内に37,313名の大麻
栽培者がいたが、近年は化学繊維の普及や海外製品の輸入等により、令和 3 (2021)年末には大麻栽培者免許を受けた者は27名
にまで減少している。また、大麻栽培者の免許は都道府県ごとに付与され、免許付与の事務は自治事務であるが、平成28 (2016)
年の大麻栽培者の免許を受けた者による大麻の不正所持の事案等を受けて、大麻栽培の管理が強化されるに至った。その結果、
各都道府県の実務上、新規の大麻栽培者の免許の付与が停止されている状況や、県境を越えた流通を目的とする大麻栽培者の
免許の付与が事実上停止されている状況がある。
○国内で栽培されている大麻草と規制
大麻草の栽培に対して THC の含有量が少ない品種の大麻草を栽培する場合であっても過剰な栽培管理規制を大麻栽培者に課
すこととなっていることから、大麻栽培者の大幅な減少を招き、大麻草を繊維等として使用する伝統的な麻文化の継承すら困
難にしている。
(6)小括
これらの点に関して、令和 3 (2021)年6月に『大麻等の薬物対策のあり方検討会』において、①麻向法に規定される免許制度等
の流通管理の仕組みの導入を前提として、大麻由来医薬品の製造や施用・受施用を可能とすること、②大麻の「使用」に対する
罰則を設けること、③大麻草の部位による規制から成分に着目した規制に見直すこと等の方向性がとりまとめられているとこ
ろである。
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