[ 幻覚剤について ]

 フェンサイクリディン(フェンシクリジン、PCP、phencycliden)は、本能や認識を絶えず制御する役割を持っている脳の新しい皮質(ネオコルテックス)の機能を阻害します。この薬物は痛みを感知する神経の受容体を遮断してしまいますからPCPに纏わる事故では、大抵自らを傷付ける形をとります。PCPの作用は色々ありますが、乱用者の多くは、隔絶された感じや疎外感を覚えるといいます。時間や身のこなしが、緩慢になります。筋肉のバランスも崩れ感覚は鈍麻します。思うように話をすることも出来ず、話始めても支離滅裂になります。

 PCPの常用者では、記憶力の低下と言語障害を訴えます。長時間使用しておりますとこうした作用のいくつかは数カ月から一年位続きます。不安定な感情・・・抑鬱、不安、暴力的行為など・・・も見られます。常習的乱用者では最終的に偏執病様の症状、暴力的行動などを示すとともに本人は幻覚におそわれます。多量を乱用した場合には痙攣、昏睡、心臓発作、窒息、脳溢血などをきたします。

 リゼルギン酸(LSD、Lysergic acid)、メスカリン(Mescaline)、サイロシビン(Psilocybin)はいずれも幻覚や妄想を生じます。身体的には瞳孔の散大、体温の上昇、心拍数の増加、血圧の上昇、食欲の減退、不眠、体の震えなどが見られます。感情や知覚は極端に変化します。また、LSDやメスカリン、それにサイロシビンは精神的な苦痛を伴う反応を示すのは珍しくありません。乱用者は恐慌状態(パニック)に陥ったり、猜疑心に支配されたり、不安や焦燥に付きまとわれて自制を失います。例え使用を中止した後でも、後発性症状、つまり再燃現象(フラッシュバック)が発生することがあります。

■幻覚剤の概要

 幻覚をもたらす薬物(hallucinogenic drugs)は、それが天然の物質であると合成された物質であるを問わず、外界に対する認識を歪んだものにしてしまいます。大抵の場合幸せな気分に、また時として極めて憂鬱な気分にかえてしまうことでも明らかなとおり、中枢神経に働いて興奮状態を作り出します。幻覚剤の影響下では、瞳孔は散大し、体温及び血圧は上昇し、方向や距離、それに時間などの感覚も狂ってしまいます。使用した人は、音が「見える」とか色が「聞こえる」などと表現します。多量を用いますと、幻覚や妄想などを生じます。時折、自殺を図るなど極めて深刻な憂鬱状態や離人現象(自分が自分であるという感覚を喪失してしまうことで、自分がしていることを離れた所から自分自身で観察しているといった奇妙で不合理な現象)さえ惹起することがあります。従って、幻覚状態にある人については、厳重な監視下に置いたうえ、自分や他人を傷つけたりすることを防ぐため、出来るだけ興奮させないように注意することが肝要です。一般的に、幻覚剤が体から完全に消えるまでは、激しい不安、焦燥、不眠などの症状が残ります。

 幻覚が体から完全に消失した遥か後でも、乱用者は突如として、色彩の感じ方に異変を生じたり、静止した物体が動いて見えたり、ある物体を他の物体と誤認したりするようなサイケデリック(催幻覚的、又は精神病者的)な状態の再発・・・即ちフラッシュバック(再燃現象)・・・を断片的に経験することがあります。反復して使用しますと耐性が生じ、より一層の多量使用に傾いてゆきます。幻覚剤を断薬した後にも身体的依存が確認されたという証拠はありませんが、反復使用を続けますと、使用している幻覚剤の種類や使用量や個人差等にもよりますが、精神的な依存を生じる傾向が見られます。幻覚剤は使用に先立って、その作用を予測することは出来ない性格のものである、ということを肝に命ずるべきでしょう。

 幻覚剤が、精神的な反応をどのように変化させるかは、性格に解明されている訳ではありません。可能性としては、非常に多くのことが考えられます。いずれにせよ、幻覚剤が脳細胞相互のインパルス(刺激)の伝達を阻害する作用を持っていることについては、殆ど間違いないでしょう。こうした作用は脳細胞と脳細胞の間に位置するシナプス(脳神経接合部)において、又は個々の脳細胞内部の働きを変えてしまうことによって、生じているのかもしれません。

 幻覚をもたらす薬は、

(1)細胞内部におけるエネルギーの発生を阻止し、それによって刺激の伝達をも阻害してしまうか、または、
(2)血液脳関門(blood-brain barrier)の透過性を薬が増大させてしまうため、本来なら関門で濾過されるはずの血液成分まで、そのまま通過させ、脳内に侵入させてしまう。

などによって、脳の神経細胞に影響を及ぼしているのかも知れません。こうした血液成分の要素には、ヒトの体内で自然に発生し、神経の働きに影響を与える性質を持った幾つかの化学物質であって、濃度が高い場合には幻覚症状を来すものも、その要素として含まれています。


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