[ 世界の地域別不正取引及び乱用の状況(1999年の概要) ]

 以下は、国際麻薬統制委員会(INCB)の報告による1999年の地域別の状況である。

A 東アジア、東南アジア

 東南アジアの多くの国では野生の大麻のほかに、不正栽培も広範囲で行われている。タイでは大麻の不正栽培が、北部及び東北部からその他の地域へと拡大し、国内不正生産量は年間900トンと推定されている。インドネシアでは、1994年6月に大麻50トンが押収され、37ヘクタールの不正大麻畑が取り壊された。フィリピンではTHC含量の高い大麻が不正栽培されるようになっており、オーストラリア及び日本に向けて密輸されている。1994年12月、香港で大麻の積み荷1トンが押収された。東南アジアからオーストラリア、日本、米国をはじめとする国々へ大量の大麻が密輸されている。同時に、ナイジェリア原産の大麻も香港及び日本で頻繁に押収されている。

 東南アジアでは依然として不正なけし栽培及びあへん生産も問題となっている。黄金の三角地帯(タイ、ミャンマー、ラオスの国境付近)、特にミャンマーの国境付近でけしが栽培されているが、信頼できる情報が入手できていない。ラオス及びベトナムでは開発事業や撲滅計画が進められた結果、けしの不正栽培はかなり減少した。カンボジア及び中国(主に雲南省)でも不正なけし栽培及びあへん生産が行われている。

 東南アジア各国は世界中の不正ヘロイン市場への主要な供給国であるが、国内で消費される量も多い。最近、中国の雲南省全域および広州以北の地域が、ヘロイン不正取引の中継地点とされることが増えている。過去3年間に中国当局は年間4〜4.5トンのヘロインを押収している。

 覚せい剤メタンフェタミンの密造、不正取引及び乱用は東南アジアで大変懸念されている。中国本土、台湾、フィリピンおよびタイでのメタンフェタミン密造、香港、日本および韓国でのメタンフェタミン不正取引、および日本、フィリピン、韓国およびタイでのメタンフェタミン乱用は全て東アジア犯罪組織の活動と関係している。

 メタンフェタミン製造の最も重要な原料物質であるエフェドリン押収量が、中国本土および台湾で増加していると報告されている。1990年以降、中国で押収されたメタンフェタミンは1トンを超え、他にもメタンフェタミンの相当量の押収量が台湾、香港、日本、フィリピンおよび韓国で報告されている。


B 南アジア

 南アジアでは大麻の不正栽培が広く行われており、乱用も多い。スリランカでは1994年にジャングルの中で不正に栽培された大麻300トンが破棄された。インド、ネパールおよびスリランカは毎年大麻撲滅キャンペーンを展開している。

 インドでは、許可を受けた農家がけしを合法的に栽培し、政府の統治下においてあへんを合法的に生産、輸出している。横流しを防ぐため、インド当局は正当なあへん生産地域の監視を強化し、他の州で不正なけし栽培が摘発された場合には撲滅運動を展開しているが一部の州ではあへん乱用が続いている。

 ヘロインの乱用拡大は南アジアにとって重大な問題となっている。インドでの注射によるヘロインの乱用が特に大都市を中心に増加し、この流行がHIV/AIDS感染リスク増大の一因となっている。

 メタカロン密造がインドの各地で相次いでいる。大量のメタカロンがアフリカ諸国へ密輸されており、中継地としてスリランカを利用し始めている。インドの司法当局は積極的にメタカロン密造および不正取引の撲滅に取り組んでおり、インドでの押収量は1993年の15トンから1994年には43トンを超えるまでに増加した。1994年にインドで7カ所の密造所が検挙された。


C 西アジア  アフガニスタンおよびパキスタンから、中央アジアの5つの加盟国(カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、およびウズベキスタン)を経由して、大量のヘロインとあへんが欧州各国へ密輸されている。

 大規模な大麻の不正栽培及び大麻樹脂の不正生産がアフガニスタンで続いている。大麻の乱用は西アジアのほとんどの地域で報告されており、CIS加盟諸国内でも増加してきている。

 トルコの東部地方さらにイスタンブール地域では、塩酸ヘロインを製造するための密造所が検挙されている。アフガニスタンでは、ヘロインの密造所の数は増加しつつある。主たる製造所は、ヘロインの不正製造に必要な化学物質の入手が安易な、アフガニスタンの北部、タジキスタン、トルクメニスタンおよびウズベキスタンとの国境に隣接したところに位置している。


D ヨーロッパ

 ヨーロッパでは大麻の乱用が依然大きな問題である。オランダは屋内栽培の大麻の重要な生産国となっており、1994年に約50万本の屋内栽培大麻が押収された。欧州のCIS加盟国(ベラルーシ、モルドバ共和国、ロシア連邦およびウクライナ)では大麻は自生し、かつ不正栽培されており、東欧でも不正大麻栽培が報告されている。ヨーロッパにおける大麻の押収量は1993年から1994年の間に440トンから783トンに増加した。主な供給国は、相変わらずアフリカ(モロッコとナイジェリア)、中米およびカリブ諸国(ジャマイカ)、南米(コロンビア)および西アジア(アフガニスタンとパキスタン)である。

 1994年にヨーロッパで10トンのヘロインが押収されたが、その80%は南西アジアに由来するもので、その大半はバルカンルートに沿って運ばれたと推測された。薬物の密輸ルートは多様化してきており、従来のブルガリアに加えて、チェコ共和国、ハンガリーおよびルーマニアがヘロイン及び大麻樹脂の通過国となってきている。アルバニアと旧ユーゴスラビアのマケドニア共和国は、しばしば積み替え地点として利用されている。

 ポーランドでは、アンフェタミン乱用が増加し、あへんの乱用は減少している。あへんからアンフェタミンという変化はヨーロッパのその他の国々ではもっと早い時期より見られていた。

 ヨーロッパにおけるコカインの押収は増加した。南米のコカイン密造組織は中欧および東欧諸国を通過して西欧諸国へコカインを密輸している。イベリア半島が相変わらずヨーロッパへの南米産コカインの最も重要な玄関口となっている。

 覚せい剤アンフェタミンはほとんどのヨーロッパ諸国で広く乱用されている。主にオランダおよびポーランドからの大量のアンフェタミンが、西欧及び北欧のいくつかの諸国で押収されてきた。ポーランドでは1994年に4つの大規模なアンフェタミン密造所が摘発された。不正なアンフェタミンおよびメタンフェタミンの小さな規模での密造が行われており、1994年にはこのような小規模の密造所が70カ所摘発された。

 MDMAの乱用の増加が、フランス、イタリア、スペインおよび他のいくつかの諸国で報告されている。1994年にそれまで最大のMDMAの密造所がアムステルダムで摘発された。

 LSDの乱用はヨーロッパ諸国で増加しており、チェコ共和国とスロベニアではLSDが最も乱用される薬物の一つになりつつある。ヨーロッパで見られるLSDのほとんどは米国産である。


E  アフリカ

 殆どのアフリカ諸国で大麻の不正栽培が行われている。モロッコ山岳地域、ナイジェリアでは大規模な不正大麻栽培が行われている。南アフリカは主要な大麻供給国であり、年間175,000トン以上の不正大麻が栽培されていると推定される。南アフリカで栽培された大麻はほとんどが国内で乱用されるが、一部はヨーロッパへも密輸されている。西アフリカの数カ国で大麻乱用が急増しているが、これらの国では、大麻はそのまま単独、またはコカインやヘロイン等と混ぜて喫煙される。

 南アフリカでは、特に主要都市でコカインの入手が容易になり乱用者が増加し、この4年間でコカイン押収量が急増している。西アフリカの一部の国でもコカイン乱用が報告されており、ここではコカインが安価なため下層階級にコカイン乱用が拡がっている。ガーナ、ナイジェリア、セネガルおよび南アフリカでのクラックの乱用も報告されている。

 東部および南部アフリカでインドから密輸されたメタカロンの乱用が問題となっている。メタカロン密輸は依然として最も収益の多い不正事業の一つで、ヘロイン密輸より収益が多いことさえあるといわれている。メタカロンの主な密輸先は今でも南アフリカで、ここはマンドラックス(Mandrax:メタカロンと抗ヒスタミン剤の配合剤)の乱用も世界一である。

 このほか、アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート、エフェドリン、ペモリン等の乱用もアフリカ諸国で存在するようであるが、その正確な実体はつかめていない。


F 北アメリカ

 この地域では依然として大麻が最も乱用されている。米国で大麻を乱用する若者の数は1985年から1992年にかけて連続して減少した後、この3年間では増加が認められている。たばこに大麻とフェンシクリジン(PCP)やコカインを混ぜたものの乱用もある。

 ヘロイン乱用増加が、カナダの特に都市部で報告されている。ヘロイン乱用は米国でも増加しており、その主な乱用形態は依然として注射である(ヘロイン乱用者の推定62%)。コカインの陶酔作用の増強とコカイン使用中止後の抑うつ状態の軽減を目的に、コカイン(特にクラック)乱用者がヘロインも乱用するケースが米国で増えている。

 米国では、メタンフェタミンの密造や不正取引および乱用も増加しており、重大な問題となっている。メキシコおよび米国では、メタンフェタミン密造と、その最も重要な原料物質で合法的に入手できるエフェドリンの流用とが、直接結びついている。

 米国で小児の注意集中障害治療のためにメチルフェニデートを大規模に処方した結果、処方を受けた児童が青年期になってメチルフェニデートを乱用する問題が生じている。また、フルニトラゼパムの乱用拡大も問題となっており、大量のフルニトラゼパム製剤が米国へ密輸されている。


G 中央アメリカ、カリブ海地域

  大麻はこの地域のほとんどで栽培されており、特にジャマイカが米国やカナダへの重要な供給源になっている。

 またこの地域は、南米産コカインの北米、ヨーロッパ向けの中継地となっているほか、麻薬組織による資金洗浄(マネー・ロンダリング)の活動も活発化している。これに対してパナマでマネー・ロンダリング撲滅に必要な法規制を確立させたほか、カリブ地域金融対策委員会も運営されている。


H 南アメリカ

 南米では相変わらず大麻が乱用薬物の中心である。コロンビアでは不正けし栽培、あへん生産およびヘロインやモルヒネ製造が今でも行われており、不正なコカイン取引網を利用して密輸されている。これ以外の南米諸国で1995年に不正にけしが栽培されたという報告はない。

 世界最大のコカ葉生産国は相変わらずペルーで次がボリビアである。コカペーストは主にボリビアおよびペルーで引き続き生産され、これらの国からコロンビアへ密輸されて、最終的には塩酸コカインに加工される。ボリビア、コロンビア、およびペルーのようなコカ栽培国において、コカペーストは容易に入手でき、通常タバコに混ぜて喫煙される。これらの国ではコカペースト乱用が重大な社会問題や健康上の問題となっている。

 向精神薬、特に抗不安薬(マイナートランキライザー)および覚せい剤の乱用増加が、南米のいくつかの国の主に都市部で報告されている。医師の処方箋無しのあるいは偽造処方箋による向精神薬含有製剤の調剤及び販売が、乱用拡大の主な原因である。

 コロンビアにおいて、強力な薬物カルテルの存在は経済政治の安定にとって不変の驚異であったが、このようなカルテルに対して講じられた対策が成功を納め、メデジン・カルテルは1993年に解体し、カリ・カルテルの指導者は最近逮捕された。


I オセアニア

 大麻はオセアニアのいくつかの諸国で自生しており、また、オーストラリア、フィジー、ニュージーランド、パプアニューギニアおよびサモアで不正に栽培されている。パプアニューギニア産の大麻が、しばしばオーストラリアで押収されている。また、同地域のいくつかの諸国で大麻乱用の報告がある。オーストラリア、ニュージーランドおよびパプアニューギニアでは、大麻は依然として最も乱用されている薬物である。

 オーストラリアでは、けしの合法的栽培は適切に規制、統制されている。ニュージーランドでは、不正けし栽培事例がいくつか報告されている。

 MDMAの不正製造と乱用が、オーストラリアでは依然として大きな問題となっている。オーストラリアにおけるこのような向精神薬の不正製造に使用される原料物質は、通常、米国および欧州諸国より入手されている。

 覚せい剤(アンフェタミンおよびメタンフェタミン)の乱用はニュージーランドでも報告されており、同政府は増加する覚せい剤の乱用を問題視している。同国では相当量のLSD、メスカリンおよびサイロシビンも不正薬物市場で最近発見されている。